Column
視点を変えれば発見がある 第9回:親戚が多すぎる
2026/10/15
中安昭人の連載コラム

【連載コラム】視点を変えれば発見がある
ベトナムに住んでいるといろんな謎に遭遇します。しかし背景を知ると「そうなのか!」と納得することが少なくありません。ベトナム在住日本人のそんな体験を紹介するミニストーリー。コーヒーを片手に気軽にお読みください。
第9回:親戚が多すぎる
「ヒエンさんは、親戚が亡くなられたそうで今日は欠勤です」
総務のベトナム人スタッフから報告を受けた恵子さんは、思わず、
「えー、またなの!?」
という言葉が口をついて出てきた。
この2か月で3回目。遠い親戚だということで「慶弔休暇」ではなく「有給休暇」を取得したそうだが、急に休まれるのは困る。ヒエンさんに限らずベトナム人社員は、やたらとお葬式や結婚式が多い。本当なのだろうか?
翌日、出社してきたヒエンさんに話を聞いてみた。亡くなられたのは、彼女の従姉(いとこ)のご主人さんのお母さん。「親戚」の範囲が広すぎないか? 「場所はカイベー。ホーチミン市内からバイクで片道3時間くらいかかる」ので、やむを得ず休暇を申請したそうだ。弔問だけだったので、現地に滞在していたのはわずか30分ほどだと言う。
それからほどなく、恵子さんの会社に税務調査が入った。調査結果を見て驚いた。一部の経費が認められなかった結果、利益が増え、法人所得税の追徴課税が発生しているのだ。金額も痛いが、何より納得できない。
恵子さんが頭を抱えていると、ヒエンさんが提案してきた。「私の親戚が外資系企業を管轄する税務署に勤務しています。一度、彼に会ってみませんか」と言う。面会をしたのは税務署1階の待ち合いロビー。現れたのは50代後半くらいの男性だった。渡された名刺の肩書を見ると、その地位の高さがうかがえる。
気になるのはヒエンさんとの間柄だ。
「私はヒエンの旦那のお姉さんの伯父にあたります」
恵子さんは心の中で「それって、ほとんど赤の他人じゃん」とつぶやいた。ところが男性は、恵子さんが事前に提出した資料にしっかり目を通してくれていた。
「親戚だからと言って、課税に手心を加えることはできません。でもですね、どこまでを経費とするかは主観が入るので、担当者によって判断が分かれます。私が見たところ、この担当者は非常に辛めです。私から再考を促すように働きかけましょう」
恵子さんがお礼を言うと、「遠い姪のような存在であるヒエンからの頼みですから、無下にはできませんよ」という答が返って来た。男性は「再考しても課税額が下がるとは限らないので、期待しないで待っていてください」と言っていたが、最終的に税金は減額されたのである。
ベトナム人の「広すぎる親戚づきあい」、これを目の敵にするのではなく、味方に取り込んだほうが、ベトナムでは得策なのではないか。恵子さんは今ではそう考えている。
*文中に出てくる社名・人名はすべて仮名です。

執筆者
中安 昭人(なかやす・あきひと)
- 自己紹介
- 「ベトナムの伝道師」を目指している編集者・ライター。ベトナムを初めて訪れたのは1995年。趣味は路地裏のカフェ巡り。
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