Column
視点を変えれば発見がある 第3回:少額のお釣りをくれない運転手
2026/04/14
中安昭人の連載コラム

【連載コラム】視点を変えれば発見がある
ベトナムに住んでいるといろんな謎に遭遇します。しかし背景を知ると「そうなのか!」と納得することが少なくありません。ベトナム在住日本人のそんな体験を紹介するミニストーリー。コーヒーを片手に気軽にお読みください。
少額のお釣りをくれない運転手
またお釣りをごまかされた。
久しぶりにタクシーに乗った時のことだ。運賃4万8000ドンに対して5万ドン札を出したところ、運転手が2000ドンのお釣りをくれなかったのである。普段はグラブを使っていて運賃はモバイル決済なので、こういうことはないのだが……。「商売なんだから、お釣り用の小銭はちゃんと用意しておけよ」と呆れながら車を降りた。
宇江城さんはハノイにある日本企業で働く経理マン。赴任して約1か月。ベトナムの居心地はいいが、職業柄もあって、お金の支払いがずさんなのには、どうしても慣れない。スーパーマーケットでお釣りの代わりに飴を渡された時は驚いたものだ。
会社に戻って同僚の日本人社員に今日の経験を話したところ、大いに同情してくれた。
「宇江城さんの違和感は当然だと思う。そういう細かいところにいい加減だから、ベトナムはなかなか後進国から抜け出せないんだよ」
その夜、宇江城さんはカナダのトロントに駐在している大学時代の友人にメールを送り、今日の体験談を愚痴った。ところがである。翌日、友人から返ってきたのは意外な内容だった。
「カナダではお金の端数は切り上げか切り捨てだよ」
例えば、1ドル18セントの物を買って1ドル20セントを払うと、2セントのお釣りはもらえないというのだ。逆も同様で1ドル22セントの物を買う場合は、1ドル20セント支払えばいい。
友人が調べたところによると、カナダでは「1セント硬貨をなくすと、1年間で日本円にして約9億円あまりのコストが削減できる」という試算を元に、2013年に政府が1セント硬貨を廃止し、「二捨三入、七捨八入」のルールが導入されたそうだ。友人曰く、
「ベトナムでお釣りをくれないのは、カナダとは違う理由だとは思うけど、そのほうが経済効率はいいんじゃないかな。少なくとも僕は、カナダ方式のほうが居心地がいいよ」
宇江城さんはさっそくネットで検索してみた。少額硬貨の廃止を法律で決めた国に、事実上廃止された国まで含めると30か国を超えるではないか。なんと日本でも「1円硬貨・5円硬貨廃止」が検討されているという。
翌日のことである。路上の麺屋で宇江城さんはフーティウを食べた。値段は5万4000ドン。ところが手元には5万ドン札と50万ドン札しかない。宇江城さんが困っているのを見た店主は「いいよ、5万ドンで」と4000ドンをまけてくれたのである。
タクシーでお釣りがもらえなかったときは、「こんなことをして小銭稼ぎをしようだなんて、姑息だな」と感じた。でも実は違うんじゃないか。ベトナム人のおおらかな性格、そして彼ら流の経済的合理性ゆえなのではないか。今、宇江城さんは、そんな風に感じている。

執筆者
中安 昭人(なかやす・あきひと)
- 自己紹介
- 「ベトナムの伝道師」を目指している編集者・ライター。ベトナムを初めて訪れたのは1995年。趣味は路地裏のカフェ巡り。
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