Column
視点を変えれば発見がある 第8回:ベトナム人社員宅で食事をご馳走になる
2026/09/15
中安昭人の連載コラム

【連載コラム】視点を変えれば発見がある
ベトナムに住んでいるといろんな謎に遭遇します。しかし背景を知ると「そうなのか!」と納得することが少なくありません。ベトナム在住日本人のそんな体験を紹介するミニストーリー。コーヒーを片手に気軽にお読みください。
第8回:ベトナム人社員宅で食事をご馳走になる
「工藤社長、今度の日曜日、私の家に来て頂けませんか。両親が昼食をご馳走したいと言っていて……」
招待してくれたのは30代の女性社員・ヴィさん。
「喜んでお邪魔させてもらうよ」
工藤さんは笑顔で承諾しながら、ちょっと気が重たくなった。
彼はホーチミンシティで小さな人材紹介会社を営んでいる。日本人社員は工藤さん1人で、他5人はすべてベトナム人だ。社員達とは公私ともに付き合いがあり、一緒に食事に出ることも多い。今回のように自宅に招かれたのも、一度や二度ではない。
ベトナム人社員宅の食卓に招かれたときに苦手なのが「よそい合い」である。彼が招かれた家庭での食事はいつも、食卓の中央にいくつかの「大皿料理」が並び、それを各自がご飯茶碗に取って食べるというスタイルだった。
ところが、工藤さんが自分の食べたいおかずを取る前に、食卓を囲んだ他の人達が「Ăn đi! Ăn đi!」(食べて! 食べて!)とおかずを載せてくれるのだ。これにはどうも慣れない。
ヴィさんに思い切って相談すると、「そんなの難しく考えることないですよ」と一笑された。彼女曰く、
「あれは、料理を無理強いしているわけではなく、『私はあなたのことを気遣っていますよ』というサインなんです」
「そうなのか……。でも一方的に食べさせられるのは、どうも落ち着かないんだよ」
「ベトナム人でも同じように感じる人はいます。その時は『攻撃は最大の防御』ですよ」
戸惑っている工藤さんにヴィさんが解説してくれた。
「工藤さんが相手のご飯茶碗におかずをよそってあげるんですよ。そうすれば工藤さんから相手への気遣いを示すことができますし、相手からの攻撃も減らすことができて、一石二鳥です」
「でも、嫌いなおかずを渡してしまったら、相手は困るだろう?」
実は工藤さん自身、苦手な食べ物を載せられてしまい、食べるのに苦労したことがあるのだ。
「多くの人は、自分が好きなおかずを人によそいます。同じものをよそい返してあげればいいんですよ。工藤さんが好きなおかずがあったら、それをよそってあげます。そうすると相手も『そうか、この人はこれが好きなんだな』とよそい返してくれるでしょう」
ヴィさんは「私の言ったことが、すべての場面に適用できるわけではありませんが、私の家に来たときには、この戦略を試してください」と笑顔で勇気づけてくれた。おかずを載せられることをゼロにはできないだろう。でもそれが「気遣いを形にしたものだ」と考えると少しは気が軽くなった。
ヴィさんのお父さんは、お酒が好きだと聞いている。「手土産に日本酒でも持って行こうか」、そんなことを考えていると、少しずつ週末が楽しみになってきた。
*文中に出てくる社名・人名はすべて仮名です。

執筆者
中安 昭人(なかやす・あきひと)
- 自己紹介
- 「ベトナムの伝道師」を目指している編集者・ライター。ベトナムを初めて訪れたのは1995年。趣味は路地裏のカフェ巡り。
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