• TOP
  • Column
  • 視点を変えれば発見がある 第2回 : 賑やか過ぎる結婚披露宴

Column

視点を変えれば発見がある 第2回 : 賑やか過ぎる結婚披露宴

2026/03/15

中安昭人の連載コラム

視点を変えれば発見がある 第2回 : 賑やか過ぎる結婚披露宴

【連載コラム】視点を変えれば発見がある

ベトナムに住んでいるといろんな謎に遭遇します。しかし背景を知ると「そうなのか!」と納得することが少なくありません。ベトナム在住日本人のそんな体験を紹介するミニストーリー。コーヒーを片手に気軽にお読みください。

 

第2回:賑やか過ぎる結婚披露宴

「どうしてこんなにうるさいんだろう」

ベトナム人社員の結婚披露宴で、最初に出てきたカニと溶き卵のスープを飲みながら、井戸さんは独りごちた。ここはホーチミンシティ中心部にあるレストラン。バンドの生演奏で隣の人との会話にも苦労する状態なのだ。日本では閑静な住宅街で暮らして来た井戸さんにとっては拷問のような時間だった。

翌日、同じ披露宴に出席していたベトナム人社員のトゥイさんに尋ねてみた。

「昨日の披露宴は賑やかだったよね。いつもあんな感じなの?」

「あれくらいは普通ですよ」

え? あれで普通とは!

「日本の披露宴はとても静かなんだよ」

「えー! それって寂しくないですか?」

トゥイさんは目を丸くした。N1を持っていて流暢な日本語を操る彼女も日本の結婚披露宴は未経験らしい。驚いたことに、にぎやかなのは、結婚披露宴だけではないと言う。

「先日、祖父のお葬式があったんですけど、家から棺を運び出す時には楽隊を呼んで、太鼓やラッパで盛大に送り出しました。だって静かだと亡くなった方が寂しいでしょうから」

日本では厳かに儀式を執り行うのを良しとするが、ベトナムでは違うらしい。結婚や葬儀など広い意味で人を送り出す儀式は、「にぎやかに」が基本だそうだ。

「でもベトナム人の中でも、若い人を中心に、もう少し静かな披露宴を求める人が増えているそうですよ。SNSで見栄えがするおしゃれな披露宴に、大音量は合わないですしね」

なるほど、こんなところにもSNSの影響が及んでいるらしい。

「私の結婚披露宴も音量は控えめにするつもりですから、井戸さんも来てくださいね」

トゥイさんは付け加えた。

「でも親達は『静かな披露宴なんて論外』って大反対しているんですけど」

ベトナムでは結婚は家と家のつながりだという意識が今も強い。それだけに親の意向は大きな力を持つ。静かな結婚披露宴が実現するには、世代交代を待たねばならないのかもしれない。

*文中に出てくる社名・人名はすべて仮名です。

中安 昭人(なかやす・あきひと)

執筆者

中安 昭人(なかやす・あきひと)

自己紹介
「ベトナムの伝道師」を目指している編集者・ライター。ベトナムを初めて訪れたのは1995年。趣味は路地裏のカフェ巡り。

お問合せ