オフィス関連

意識や注意に頼らない“仕組み”のつくり方

問題の未然防止コンサルタントが教える オフィスマネジメント1 ルールを守らせたいなら「ステップを削れ」 「なぜ、あれほど言ってもやってくれないのか?」 簡単なことのはずなのに、スタッフがなかなかやってくれない。 良かれと思って始めたルールが、まったく定着しない。 そんな経験はないでしょうか?しかも厄介なのは、それがスタッフの「反抗」ではないということです。むしろ、彼らはあなたの指示に心から同意し、やろうと努力している。それでも、なぜか現場では定着しない、うまくいかない…そんな「同意の上で失敗している」パターンに、あなたは悩まされていませんか?原因は、そのルールが人の注意や意識に依存した設計になっているからです。 自分自身が“守れなかった”ルール 私自身が、痛感した話があります。あるとき、私は新規工場の生産立ち上げ準備を担当していました。工場はすでに清掃が行き届いており、内部は清潔。しかし工業団地側の事情で、急遽、外構工事が始まり工場の外周が塵だらけになってしまいました。この工場では本来、「外は外履き、中は上履き」というルールを設けていました。しかし、普段からそれが徹底されていたわけではありませんでした。屋内が汚れることを防ぐべく、私は責任者として「上履きの徹底」を強く再アナウンスしました。出入り口に注意喚起の貼り紙もし、毎朝の朝礼でも念押し。スタッフも「分かりました」とうなずいてくれていました。そんな中、私の管轄の隣の工場で急用があった際に、私自身が上履きのまま外へ出て行ってしまったのです。スタッフに指摘されるまで、まったく気づきませんでした。自分が言ったルールを、自分が守れていなかった。正直、ショックでした。 失敗の原因は「意識の欠如」ではない 「なぜ、自分はこんな簡単なルールを守れなかったのか?」その結論はシンプルでした。 “ステップが地味に多い”からです。このルールを守るには、最低3つの行動が必要でした。 ルールを思い出す(または貼り紙を読んで内容を認識する) 下駄箱まで歩く 靴を履き替える 特に1と2でつまづき易い。急いでいれば、貼り紙は目に入らない。下駄箱が少し離れていれば、「ちょっとだけだから…」とスルーしてしまいたくなる。私はそこで、環境を変えることにしました。外構工事の期間中だけ、下駄箱を出入り口の目の前に移動させたのです。 絵を見ていただければ分かる通り、正直邪魔な位置ですが、それがミソです。結果、出入り口に立った瞬間に下駄箱が視界に入る。自然とルールを思い出し、履き替える流れができました。 私自身の履き替え忘れはゼロになり、スタッフの行動も明らかに変化しました。工事が終わってからも、下駄箱は元の場所ではなく、動線上の目立つ位置に再設置。ルールの定着率が飛躍的に改善しました。 ルールが守られないのは「人間が悪い」のではない このエピソードから学んだことはシンプルなことでした。人の注意力や意識に大きく頼ったルール設計では、行動は定着しない。人には悪意があるわけじゃない。でも「つい、うっかり」「少しだけなら」という気持ちが出るのが人間です。だから、意識ではなく環境で制御するのが現実的なのです。「靴を履き替える」という簡単な動作であっても、必要なステップ数が多かったり不慣れな行動を要求すると実行されにくい。それなら「そのルールで実現したい結果に至るまでのステップをとことん削る」べきです。数を減らすだけではなく、ネックになりやすいステップ自体を無くすこともできれば理想的です。 この考え方は、あらゆる場面に応用できる こうした考え方が適用できるのは、工場だけに限りません。例えば、 新しいチェック表を導入したいとき ミス再発のフローを作りたいとき 報告や記録の習慣を定着させたいとき そのたびに、「新しい手順」を足すのではなく「今のプロセスの中に自然に埋め込めるか?」「敢えてステップを削り、その代わりとなる機能を果たせる変更を物理的に加えることで、目的を達成できないか?」これを問い直すことが重要です。 文化として根づかせるには こうした「省ステップの仕組みづくり」は、暫定的には管理者や駐在員がお手本を見せる必要があると思います。ですが恒久的には、現場のスタッフ自身が考え、実行する文化に昇華させるべきです。 そのために必要なのは、まず1つ、「成功体験」を共有すること。一つの成功事例が、チーム全体の「こうすればうまくいく」という型になります。改善とは、新しい何かを足すことではなく、今あるステップを“減らす”ことから始める。そもそもネックになっているステップ自体をなくすことが出来れば問題は消える。この考え方をチームで共有できたとき、あなたの現場は確実に変わり始めます。 あなたの現場でも試してみてください 今、あなたのチームで「ルールが守られない」「作業が定着しない」ものはありますか?それが3ステップ以上かかる動作なら、まず1つだけ削ってみてください。「決めたのにできない」は、決して“人のせい”ではありません。ルール設計を見直し、省ける部分を省くことで、無理なくできるように変えられるのです。そうやって、守るべきルールは最小の注意力で遵守し、本来優先すべきより付加価値の高い仕事に対してもてる集中力を投下しやすい環境を作っていく。 それが「あるべき姿」です。

2025/11/26

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ルーティン業務こそ、隠れた創造性の源泉

問題の未然防止コンサルタントが教える オフィスマネジメント2 「ルーティン=ネガティブなもの」は大きな誤解 「ルーティン」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか?「決まりきったつまらない作業」「機械的で人間味がない」「思考停止の状態」… もしそんなネガティブなイメージが頭をよぎったなら、それはあなたがまだ、質の高いルーティンの恩恵を経験していないからかもしれません。そもそも、なぜルーティンが必要なのでしょうか?それは、安定して質の高い成果を確実に生み出し続けるために他なりません。この目的のためにこそ、ルーティンは私たちの仕事の「土台」となるのです。 工場におけるルーティンは「成果の土台」 たとえば生産工場では、日々の作業はまさにルーティンの連続です。 朝会でその日の生産目標や注意事項を確認する 自分の担当工程の設備を始業前に点検し、記録をつける 決められた作業手順に従って加工を進める 異常や不良が発生したら即座に作業を止め、ラインリーダーに報告して指示を待つ 定められた時間に休憩を取る 終業時には点検と清掃を行い、業務を終える 工場では、作業者は「ルールを守る人」、ラインリーダーは「ルールを守らせる人」、間接スタッフは「ルールを作る人」として、それぞれの役割が明確に分担されています。 ここで言うルールとは、広義には「ルーティン」のことです。そして工場が目指すのは、少ない人数で、安定的かつ高品質な製品を納期までに生産し続けること。 この目的を実現するための手段が、ルーティンなのです。ルーティンがなければ、日々の作業は属人化し、品質や納期は不安定になるでしょう。 ルーティンは創造性を奪うのではなく、引き出す 冒頭で触れたルーティンに対するネガティブな印象は、それに従う状況に対する「自由度のなさ」や「創造性の欠如」を連想される事によるものでしょう。ですが、それは大きな誤解です。なぜなら、ルーティンは一度決まれば厳格に守られるべき「基準」であると同時に、常に改善を通じて進化させていくものだからです。その基準が常に最適である保証はありません。実際、工場では日々大小さまざまな問題が発生します。作業者の不注意、部品の欠陥、機械の故障、あるいは天災などの不可抗力。こうした事象が起きたとき、間接スタッフの本来の仕事は、単なる暫定対応だけではなく、根本原因の特定と再発防止に向けた恒久対策の立案・実行にあります。にもかかわらず、ありがちなのはこうです。「作業者がルーティンを守らなかったせいだ」と責任を押しつけ、再教育で終わらせる。これは、表面的な対症療法にすぎません。本来見るべきは、「なぜルーティンが守れなかったのか」「そもそもそのルーティンに無理があったのではないか?」という構造的な視点です。問題が起きたときこそ、人ではなくルーティンの中に原因を見出すべきです。この「問題解決」のプロセスこそ、ルーティンが創造性を引き出す場となるのです。 改善のプロセスはこうなります: 問題の分析と原因の特定 ルーティンの改定案を設計 正式なルーティンとして承認・明文化 教育を通じて現場へ展開・定着させる このサイクルこそが、まさに創造性を発揮する場です。むしろルーティンがない状態で「工夫してくれ」と言われても、基準がなければ何をどう改善していいのか分からず、ただ混乱が生まれるだけです。制約があるからこそ、創造性が引き出されるのです。 オフィス業務でもルーティン設計は有効 「創意工夫してほしい」と期待するのであれば、まず必要なのは明確な基準(ルーティン)です。 創造性とは、白紙の状態から生まれるものではありません。完全に自由な状態では、ほとんどの場合、どこから手をつけていいか分からない混沌が生まれるだけです。しかし、明確なルーティンという「制約」があるからこそ、その中で最も効率的で革新的な方法を探るという、本質的な創造性が発揮されるのです。 これは工場に限った話ではありません。たとえばオフィスでの来客対応、会議の準備、社内連絡…これらも、明確なルーティンとして設計・明文化しておくことで、誰がやっても一定以上の成果を再現できるようになります。逆に、ルーティンが曖昧なままだと属人化しやすく、抜け漏れやトラブルが起きやすくなります。良質なルーティンは、組織全体の「思考と行動の土台」となるのです。 まとめ:ルーティンは「思考停止」ではなく「思考の起点」 ルーティンがあるからこそ、改善できる。ルーティンがあるからこそ、創造的に仕事ができる。むしろ、ルーティンを軽視している組織こそが、創造性を殺してしまっているのではないでしょうか?“良いルーティン”とは、「安定性」と「進化性」の両方を支える構造です。そして、その運用と改善のサイクルの中にこそ、創造性は息づいているのです。できる業務は徹底的にルーティン化し、その運用負担を最小限にする。そのことこそ、本来人の力が最も求められる、判断・工夫・創造を要する業務(例:顧客との深い対話、新しいサービス開発、未解決の問題への挑戦)に集中できる環境を整えます。「ルーティンは創造性を潰すもの」ではありません。むしろ、創造性を発揮するための「土台」として設計すべきものなのです。 それが「あるべき姿」です。

2025/11/26

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北風と太陽に学ぶ、自然と「やりたくなる」仕組みづくり

問題の未然防止コンサルタントが教える オフィスマネジメント3 人を動かすのは「命令」でも「ご褒美」でもない 「北風と太陽」 「何度注意しても、なぜか同じミスが減らない…」「簡単な業務のはずなのに、いつまで経っても現場に定着しない…」現場で働く方なら、誰もが一度はこんな「もどかしさ」を感じたことがあるのではないでしょうか。そして、そのたびに試すのが、「もっと強く指示する」「繰り返し注意する」「ルールを厳格に明文化する」といった、いわば「真っ向勝負」のアプローチ。一時的には効果が見えるかもしれませんが、やがて反発が生まれ、現場は疲弊し、指示そのものも形骸化していく負のループに陥りがちです。もし、あなたがこのループから抜け出せないと感じているなら、それは「他に手がない」と思い込んでいるからかもしれません。そんなときこそ、思い出してほしい物語があります。 イソップ童話「北風と太陽」です。 行動は、強制ではなく「理由」で引き出せる 旅人のコートを脱がせようとした北風は、力任せに風を吹きつけました。しかし、旅人はますますコートを強く握りしめるばかりです。一方、太陽は暖かく照らすことで、旅人が自ら進んでコートを脱ぐ状況を作り出しました。これは単に「押してダメなら引いてみろ」というような話ではありません。そこには、人の行動変容における本質的な違いが隠されています。 北風: 行動を「強制」しようとする 太陽: 行動を「自ら選びたくなる状況」に変える つまり、『やりたくない』という反発の力に対し、『やらせる』という強制の力で対抗してはいけないのです。そうではなく、相手の「やりたくない」という心の向きを変えて、「やりたくなる」方向へ導くこと。これこそが、太陽的アプローチです。私たちの職場でも、この原理を応用し、「行動を取る理由」を設計することで、人の行動は驚くほど自然に変わっていきます。その実例を次に紹介しましょう。 実例:IT部門を変えた「そうしたくなる仕掛け」 具体的な成功事例をご紹介します。 私が工場のIT部門を担当していたときの話です。当時、会社には約100名の事務スタッフがおり、IT部門には毎日、似たようなIT関連トラブル対応の依頼が飛び込んできていました。その多くは過去に何度も発生した問題ばかり。にもかかわらず、その場しのぎの対応ばかりが繰り返され、根本的な再発防止の取り組みはほとんど行われていませんでした。「再発防止を徹底しなさい」と指示を出しても、なかなか動いてもらえない。なぜか?それは、スタッフの心理にこんな構図があったからです。 「トラブルに対応している方が『仕事してる感』が出る」 「周りに直接感謝されるから、対策するより対応した方が気持ちいい」 私はこの状況に対し、“太陽的”な施策を行いました。 【実施したこと:意識と環境の変革】 IT部門の役割を再定義: 「トラブル対応」ではなく、「社員のパフォーマンス最大化をITで支える(ITを止めないこと)」と役割を明確化 評価基準の転換: トラブル対応件数ではなく、「再発防止に向けた行動」を高く評価対象に変更。逆に、同じトラブルの繰り返し対応は評価しない仕組みに 依頼ルールの明確化: 口頭や電話での受付を禁止し、専用のフォーム経由でのみ受け付けるように変更。フォームにない案件は評価対象外と明言。これにより、すべてのトラブルが記録され、問題のパターンが可視化される仕組みを構築 【結果:行動が劇的に変化】 ITスタッフは、「再発させないこと」が自身の評価に直結すると認識 トラブルを放置するより、「根本を解決する方が自分にとって得だ」と思える環境に変化 結果、同じようなミスが激減し、IT部門全体が“トラブル予防集団”へと劇的に変化 このように、環境と評価の構造をデザインするだけで、人の行動は自然に、そして自発的に変わっていくことを私たちは実感しました。「なぜやってくれないのか?」という問いの根源にある原因を深く見つめ、その原因となって働いている心理的・構造的な力を、どうすれば「やりたくなる」方向へ向けられるか?それを問う必要があるのです。 応用:気持ちに頼る行動ほど「太陽戦略」で 会社の本業に直結する業務では、どうしても「北風的」なルールや評価になりやすい側面があります。何でもかんでも太陽的にできればそれに越したことはありませんが、前述のIT部門の例は、比較的変革の余地が大きいケースかもしれません。一方で、個々人の「気持ち」や「意識」に頼らざるを得ないような領域、例を挙げれば 職場での気持ちの良い挨拶の習慣 ヒューマンエラーを防ぐための指差し呼称などの安全行動 チーム内の円滑なコミュニケーションを促す小さな気配り といった、「行動していても心が伴っていなければ意味がない行動」こそ、太陽的な工夫が非常に有効です。例えば「気持ちの良い挨拶が定着しない」という職場では、「挨拶に相手の名前を添える」だけで劇的に改善した例があります。誰しも自分の名前は好きなものですから、名前を呼ばれた相手は喜びを感じ、自然と笑顔で挨拶を返すようになります。それが伝染し、職場全体の挨拶の質が向上したのです。 最後に:仕組みで「やりたい」をつくる 人の行動を変えたいなら、「命令」よりも「理由」の設計です。その行動を取ることで「自分にとってメリットがある(得をする)」「居心地が良くなる」「正当に評価される」といった、心理的・構造的な「やりたくなる」理由を組み込むこと。そんな仕組みをつくることで、人は自然と動き始めます。あなたの現場にも、「北風」になってしまっている仕組みはありませんか? 「行動そのものに、自ら『やりたい』と思えるような意味や理由を持たせることはできないか?」そんな問いから始めてみてください。 「コートを脱がせたいなら暑くさせる」「力に力で対抗しない」それが、人を自発的に動かすための「あるべき姿」なのです。

2025/11/24

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